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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)2231号 判決

判   決

松戸市松戸一九九五番地

原告

長谷岳

右訴訟代理人弁護士

伊東忠夫

東京都北区豊島町二丁目一番地

被告

第一総業株式会社

右代表者代表取締役

浅子保全

右訴訟代理人弁護士

近藤健一

右当事者間の損害賠償請求事件について、つぎのとおり判決する。

主文

1  被告は原告に対し、金五万八六二〇円およびこれに対する昭和三八年四月五日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。

2  原告の其の余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「1被告は原告に対し、金一〇万八六二〇円およびこれに対する昭和三八年四月五日以降支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。2訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因および被告の抗弁に対する答弁として、つぎのとおり述べた。

一、原告は昭和三八年三月一日午前九時三〇分頃その所有にかかる乗用自動車(品―5―せ〇一六〇号、以下原告車という。)を訴外小甲信夫に運転させて乗車し東京都中央区室町二の七番地のいわゆる昭和通りに差し掛つた際先行車が工事注意灯のため左斜方に進行し、原告車と併進する他の車がこれに追従したので訴外小甲は尾灯を点じて停車したところ、その直後訴外小芝正司が運転していた小型四輪貨物自動車(神―4―の―〇四七一号、以下被告車という。)が原告車の後部バンバーに衝突し、そのため原告車はテールレンズ、リヤバンバー、左フエンダー等の部分に損傷を受けた。

二、右事故は、小芝正司が先行車である原告車との衝突を避けるに足る相当な距離、速度を保持し、先行車の挙動および進路の状況に注視し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然高速度のまま、しかも当時制動装置に障害のあつた被告車を運転した過失により惹起されたもので、小芝は被告の被用者で、その業務のため被告車を運転中にこの事故を起したものであるから、被告はこれによつて原告がうけた損害を賠償すべき義務がある。

三、右事故により原告は(一)前記破損箇所の修理のため金一万八六二〇円を支出し、同額の損害を受け、(二)金八万円を下らな下取り価格の減少を来し、同額の損害を受け、さらに(三)原告は平素自動車を愛好、使用する者で、かつ原告車は昭和三七年七月に購人した新車であるところ、被告は本件事故修理代金のみを賠償すれば他を免除するとの原告の好意的申入に応ぜず、原告からの再三にわたる連絡にも誠意ある態度を示すことなく徒然している次第で、この間愛用自動車の損傷、その使用不能による不便、前記好意的申入にも何等の応答も示さない被告の不誠実な態度などにより原告は多大の精神的苦痛を蒙つた。この苦痛に対する慰藉料としては金五万円が相当である。

四、よつて、原告は被告に対し、右損害の賠償として、前項(一)(三)の金額および(二)の内金四万円の合計金一〇万八六二〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三八年四月五日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

五、被告主張の和解契約の成立は否認する。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁ならびに抗弁としてつぎのとおり陳述した。

一、請求原因第一、二項の事実は認める。同第三項のうち(一)の事実は認めるが、(二)(三)の事実は争う。

二、昭和三八年三月一日原告と前記小芝正司との間に原告車の破損による修理代金一万八六二〇円を小芝が支払うことにより、その余の賠償責任を免除する旨の和解契約が成立した。よつて原告の請求は理由がない。

立証関係≪省略≫

理由

一、請求原因第一項(事故の発生、および原告車の破損)並びに第二項(責任原因)の事実は当事者間に争がなく、被告主張の抗弁事実を認めるに足る証拠は存しない。してみれば被告は民法七一五条の規定により、本件事故によつて原告がうけた損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。

二、しかして、請求原因第三項(一)の事実は当事者間に争がなく、原告本人尋問の結果によれば本件事故により原告車は五万円を下らない下取り価格の減少を来したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、原告が慰藉料請求の原因として主張する事実は、証人(省略)の各証言および原告本人尋問の結果により肯認することができるが、一般に財産権侵害の場合に慰藉料請求権が認められるためには、目的物が被害者にとつて特別の主観的、精神的価値を有する場合とか、加害の態様が著るしく不法であるなどの特段の事情の存することを要するものと解するのが相当であるところ、本件において、前記認定事実は未だ右特段の事情にあたるものとは解し得ず、他に右特段の事情の存在について何等の主張立証も存しないので、結局原告の慰藉料の請求は失当というべきである。

三、以上の次第で、原告の請求は支出した修理代金の金額金一万八六二〇円および下取り価格の減少分の内金四万円の合計金五万八六二〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日であることの記載上明かな昭和三八年四月五日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、正当として認容し、これを超える部分は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を夫々適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 鈴 木   潔

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